彼ら目当ての女子生徒を根気良く追い払いながら、ここで過ごすことすでに数時間。
開け放たれた入り口から、入り込むのは緩い風。
「マジでおかしくねぇ?」
机に両腕を置き、向かいの瑠駆真へ乗り出す。さすがに待つのも限界だ。
「今日から、また美鶴がここの管理するんだろ?」
「の、はずだけど」
その先を、瑠駆真は言いよどむ。
彼の知る限りでは、そのはずだ。だが、ひょとしたらそうではないのかも。
黙ってしまった相手。聡は諦めて視線を外す。
再び広がる沈黙の世界。
こんな世界に身を置くと、どうしても聡は考えてしまう。
真夏の京都。霞流と美鶴。
あの二人の間に、いったい何があったのか。ひょっとしたら夏休みの間に、何か別の約束が成されたのかも。それにより、今日この駅舎の鍵を開けたのは、ひょっとしたら美鶴ではなく、別の人物。
机の上に放り出していた携帯。手を伸ばし、握っただけで操作はしない。
すでに何度か、美鶴の自宅に電話はしてみた。だが何度かけても、応じるのは留守電の機械的な声。
「行ってみる?」
瑠駆真の言葉にしばし思案。
言われた意味は理解できる。美鶴に会える場所と言えば、ココと自宅以外に思いつかない。
まだ学校に残ってるとか?
だが、聡をやたらしつこく映画に誘ってきた少女がポロリとこぼしていた。
「大迫さん、お昼前に正門から出て行くのを見ましたわ」
どこかへ行き、そしてまた学校へ戻ったとか?
だが美鶴にとって、学校はあまり居心地の良い場所ではないと思う。よほどの事情でもない限り、居残るとは思えない。
ならば、やはり自宅か?
自宅と言えば、以前住んでいたボロアパートは火事で全焼してしまった。今はどうなっているのかもわからない。焼け跡を見に行くとは思えないから、あそこも候補地から外してしまってかまわないだろう。
そう言えば、あの火事、放火かもとかって言ってたかな?
所持品のほとんどを失った美鶴の立場を思うと、本当に放火なら許せない。
犯人を目の前にしたら、きっと聡は冷静ではいられないだろう。蹴りの一発や二発では収まらない。それこそ、殺してしまうかも。
っ! 今はそんなコト考えてる時じゃねぇだろっ!
己を叱咤し、強引に頭の中身を切り替える。
駅舎、自宅、学校………
何かの事情で… という場合もある。学校という可能性も捨てきれなくはないが、やはり一番会える確立の高い場所と言ったら、自宅だろう。
しかし、聡の耳に残る留守電の機械音。
「もし居たとして、会ってくれるか?」
「会ってくれないかな?」
「そもそも俺たち、避けられてるんじゃねぇ?」
駅舎に出向けば、聡や瑠駆真とは顔を合わせるコトになる。だから美鶴は、今日ここへは来なかった…… とか?
かもしれないとか、違うかもしれない。なんてアレコレいろんな考えが頭の中を巡り、だがどれ一つにも明確な答えが出てこない。
すべては美鶴に逢ってみなければ。
どうして美鶴は、今日この駅舎に来なかったのか? 本当に来なかったのか? 来なかったのなら、鍵を開けたのは誰なのか? そして閉めるのは誰?
「あーっ!」
頭で考えるのがワリと苦手な聡。悩めば悩むほどわからなくなる。
とにかく今は美鶴に逢いたい。今はそれだけだっ!
「行くぜっ!」
短く叫んで立ち上がる。そうしてぼんやりと、少し呆れたように見上げる二重の瞳をジロリと見下ろす。
バカにされているのはわかっている。
根気のないヤツだとか、短気なヤツだとか、どーせそんなふうに呆れてるんだろ?
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